■汝マーリンを愛せよ

というわけなんだ、ペロ君。
「え?なに?なんでオレがここに?普通に書くことありまくりだろ?」
落ち着けペロ君、ここまでで既に説明したように…
「してないだろ、いきなり連れて来られたんだよ!」
ようするに、愛と有機でマーリンエンジンについて最後にまとめよう、ということだ。
「いや、野菜じゃないんだから…」

いろいろ書きちらしてしまったので、ここで一度まとめておこう。
ロイスが最後に手がけた航空用(仮)エンジン、マーリンは…
「なんだよ、(仮)って?」
まあ、そこの説明は後で。海に陸に空に大活躍なんだよ、彼は。

とりあえず、シュナイダートロフィー終了後、1931年ごろから
開発がスタートしたのが、マーリンエンジンだ。最初はPV12と呼ばれてた。
バンク角60度のV型12気筒、液冷27リッター、出力はタイプごとに異なるが、
生産型では1030馬力からスタートして、最後は1560馬力まで達していた。
もちろん、英米式馬力だから、単位はHPだね。よって770kWから1170kWまで、となる。
「まじめな話だね」
当たり前だ。私はまじめな話しか書いた事ないぞ。
で、1930年以降のロールス-ロイスの航空用ピストンエンジンは、
一部の「イロモノ」エンジンを除き、ロイスが設計に携わったケストレルをそのルーツとする。
このマーリンもその子孫と見ていい。
ただしマーリンは、ほぼ1930年代の新設計エンジンで、
ケストレル(Kestrel)- バザード(Buzzard)-R型(R type)-その次の2000馬力エンジン
とつながる「正当なケストレルの後継者」はマーリンの後から出て来るグリフォンエンジンだ。
「………うーん…コンピュータのばか…」
寝るな、ペロ君。 ここからが君の出番だ。

さて、スピットファイア以外にも、数多くの機種で採用されたマーリンエンジン。
最終的にはライバルのMe109Gにまで採用されてる。



メッサーシュミットMe109Gシリーズ。
これは普通にDB605エンジンを搭載していたドイツ本国版。



「実験機の話?」
いや、戦後、ヒスパノ アビエーション(Hispano Aviacion )社で生産された
Me109G2のスペイン版の機体の話だ。
このHA1112では、DBエンジンが既に手に入らなくなったので、
最終的にマーリンの民間用タイプ500/45を採用してるんだ。
これは戦後の民間用マーリンなんで、パワーより安定性や耐久性を重視してるので、
1400馬力程度とやや控えめな出力となってるが、軍用エンジンよりは長持ちした。
金欠と結婚したと言われるスペイン空軍にとってはちょうどいいエンジンだったかもしれないね。
「しかし戦闘機の形式で4桁の数字って珍しくない?」
確かに。HAはヒスパノ アビエーションの略なんだが、4桁の数字には何の意味があるんだか不明だ。

ついでにヒスパノメッサーと呼ばれることも多いが、
エンジンやら機関砲やらで有名なヒスパノスイザとは別会社。
つーか、ヒスパノ スイザのスペイン工場を内戦中にフランコ軍が強制徴用して
設立してしまった会社がヒスパノ アビエーション社。
「ヒスパノって、ヒスパニックのヒスパノ?」
ピンポーン。
ヒスパノスイザは、その名の通り、スペイン人の資本家とスイス人の技術者が作った自動車会社で、
第一次大戦中、フランス政府の要請で航空エンジンの開発に手を出したようだ。
なんかロールス-ロイスと似たような話だね。
で、途中から本拠地をスペインからフランスに移してるみたいなんだが、ここら辺、よくわからん。
最終的に1923年にフランスとスペインで別会社に分裂したみたいなんだが…。
ちなみに創業は20世紀初頭、1904年ごろのバルセロナ、という必要以上にエキサイティングな立地だ(笑)。

さて、せっかくだから、他にも見てみよう。



「戦車じゃん!」
戦車だねえ。クロムウェル戦車。ダックスフォードで見たときは、写真撮るか迷ったが、
撮っといてよかった、何が役にたつかは、ほんとわからんもんだ。
「戦車だろ!」
戦車だよ。で、これもマーリンエンジン搭載なんだ。
「マジっすか?」
うん、航空用エンジンを積んでしまった戦車、というとアメリカのシャーマンが有名だが、
イギリスもマーリンを改造してミーティアという名で採用しているんだ。
もちろんそのままではなく、実戦経験を経た結果、戦車が空を飛ぶケースが少ないのは既に判明していたから、
高空用のスーパーチャージャーを外し、希少なアルミ&ジェラルミンパーツは
ほとんど鉄製の重いパーツに交換されている。
「へー」
でもって、このクロムウェルに搭載したわけだ。
後の改造型、コメット戦車にも搭載されてるので、「ミーティア(流星)エンジンのコメット(彗星)戦車」という
いろんな意味で妙な取り合わせになってる。
ついでに戦後のセンチュリオン戦車にも搭載され、この戦車、
フォークランド紛争、さらに湾岸戦争にも行ってるから、
マーリンエンジン、ホンマにイギリスのあらゆる戦争に関わってるんだ(笑)。
「で、評価はどうだったの?」
そもそも戦車には疎いのに、ましてやイギリス戦車なんていうマイナーな世界、知ってるわけないじゃん。
「おいおい」
とりあえず、戦後イギリスが対ソ連戦車への必殺兵器として開発した
コンカラー(Conqueror)にも採用されてるので、エンジンとしての素性はよかったはずだ。
ちなみにロールス-ロイスはジェットエンジンの研究施設と引き換えに
ローヴァー社にミーティアの生産工場を引き渡してるはずなんだが、
ミーティアエンジンの生産は別工場で進めていたようで、
手持ちの資料を見る限りでは、すべてロールス-ロイスのエンジンとされている。

ついでに、マーリンエンジン、戦後はアメリカのボートレースで使われ、
アホみたいなハイパワーで、アホみたいなレースを繰り広げた(笑)。
さらにはイギリス人で車につんでしまう勇者もいたそうで、
なんかのタイムトライアル競技で優勝の実績があるらしい。
まあ、ここら辺はキリがないので、各自調べてください(笑)。



いや、写真は撮っておくもんだ。
ダックスフォードの陸戦館入り口にあったセンチュリオンAVRE 165 (FV4003)。
これが湾岸戦争に参加しているのだ。
ドーザータイプの土木工事用車両で、これに変わる機材がなかったイギリス陸軍は、
デビューして40年を軽く超える戦車をイラクへ持ち込んだ。
フォークランドの時に持っていったのも、これじゃないかなあ。
主砲は、おそらく165mmデモリッションガン(demolition gun)のまま。
日本語にするなら「粉砕砲」というところか。

低速の粘着性弾(HESH/HEP)を撃ちだすもの。
これで陣地などの構造物を吹っ飛ばし、
その後から、ドーザーで地ならしするらしい。
初期のものより砲身は伸びているが、対装甲車両戦は無理だろう(使えなくはないだろうが)。
西洋人の考えることは暴力的だのう(笑)。
というわけで、マーリンエンジン、湾岸戦争に参加しております。




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